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10. メンタルヘルス その1 労務相談室


 労務相談室 社会保険労務士 大倉 昭治 (あらた経営労務事務所)

所  属 所属 愛知県社会保険労務士会
労働問題研究会 (アイチ士業ネットワーク)
NPO法人中部日中経済交流会
役  職 愛知県社会保険労務士会名古屋西支部幹事
愛知中央SR経営労務センター理事
そ の 他 企業勤務経験を活かした労務管理を得意分野とする。
※個別のご相談は中川法人会事務局を通してお願いします。

 近年、職場生活において強いストレスを抱え、心の健康問題を抱える労働者が増加傾向にあり、欠勤・休職・離職が急増しています。企業にとって、職場生活のストレスによるメンタルヘルス不調者への対策を整えることは重要課題となっており、シリーズでこの問題および対策を採り上げてまいります

 1.メンタルヘルスの現状

⑴自殺数が10年連続で3万人超

 我が国における自殺者数は平成10年以来、10年連続で3万人を突破しています。これは交通事故による死者数の約6倍に相当する数字です。日本の自殺率は世界的に見ても高率で、主要国ではロシアに次いで第2位。アメリカの約2倍、イギリスの約3倍で、まさに「自殺大国」といえるほど深刻な社会問題となっています。

⑵増加し続ける企業における「心の病」

 自殺の最大の原因となっているのが、うつ病をはじめとする「心の病」です。
 企業におけるメンタルヘルスの実態調査では、平成19年にメンタルヘルス不調で1ヵ月以上休職している従業員がいる企業は62.7%にのぼり、3年前の調査より10ポイント以上も上昇しています。さらにメンタルヘルス不調者が最近3年間で増加していると答えた企業は55.2%と半数以上にのぼっており、企業における心の健康問題はより深刻化してきています。

⑶「心の病」を原因とした労災申請も急増

 会社側の責任を追及する動きも目立ってきています。その一つは心の病を原因とする労災の認定請求が急増していることです。
 平成3年の段階ではわずか2件だった請求数が、平成19年度には900件を突破し、平成22年度は最多の1,181件となっています。実際の認定数も平成22年度には過去最高の308件で、初めて300件を超えました。世代別でみると30代が28.6%、40代が24.7%、次いで20代が24%で、働き盛りの30~40代で過半数を超える53.3%を占めています。

⑷メンタルヘルス問題に伴う経済的損失の大きさ

 会社における経済的損失はどのくらいあるのでしょうか。
 たとえば一人の従業員が心の病で長期の休業を余儀なくされた場合、平均休業期間は約5ヵ月間とされています。しかも心の病はある日突然発症するわけではなく、次第にやる気や仕事の能率が落ちていき、結果として休まざるを得なくなります。また改善後に復職しても、すぐに元の仕事ができるわけでもありません。したがってその前後のパフォーマンスの低い時期を加算して、約8ヵ月分の経済的損失があると考えられます。
平均休業5ヵ月+療養開始前の能力低下3ヵ月×0.5+復職後リハビリ3ヵ月×0.5=8ヵ月分
 加えて労災申請や民事訴訟などに発展した際には、会社にとって大きな損失につながります。さらに休業者が出た職場では、その人の抜けた穴埋めをするために頑張り過ぎて、同じように心の病を連鎖的に発病してしまう人が現れる可能性もありますし、職場全体のモチベーションが低下して企業業績にまで影響しかねません。万が一、過労自殺などが発生した場合には、業界における企業イメージに大きな傷がついてしまいます。

⑸メンタルヘルス対策の成否が企業業績を左右する

 会社として適切なメンタルヘルス対策を行うことによって、うつ病などの心の病の発症を減らすことは十分に可能です。そのような好ましい変化が現れた職場では、従業員の体も心も健全となり、安心して日々の仕事に専念することができるようになり、パフォーマンスが向上します。心の病が減少すれば休業補償や労災などによる会社の経済的損失も減らすことができ、職場のモラルや企業イメージを向上させ、業績を上げることさえ可能なのです。

 2.「心の病」が急増しているさまざまな理由
 
⑴職場内における会話、コミュニケーションの不足

それでは会社において、心の健康問題が多発している原因としては、どのようなことが考えられるでしょうか。
 よく指摘されている要素としては、「コミュニケーション不足」があります。IT系をはじめとする最近のオフィスでは、情報伝達の多くがメールで済まされ、従業員同士の直接の会話が極端に減っています。また業務区分が細分化され、そもそも会話する機会が少ないのも実情です。そのために従業員は孤立感を覚え、心のバランスを失ってしまいます。

⑵「成果主義」導入による従業員間の過当競争、職場内の雰囲気の悪化

 また1990年代以来導入された「成果主義」の影響も考えられます。
 組織を活性化して業績を向上させる目的で導入されたのですが、いざ運用してみると、短期的な成果だけで従業員を評価する風潮となり、誰もが他人を蹴落として成果を独り占めしようとする雰囲気になったとの話を耳にしたことがあります。そのため長期的な視点での若手の育成や、皆で協働して一つのことをやり遂げようという機運が希薄となり、ギスギスした職場の空気となって従業員の心の病を多発させたといいます。

⑶景気の低迷やリストラ、非正規従業員の増加に伴う残業・時間外労働の増加

 それに加えて残業など時間外労働が増加したことも見逃せません。景気の低迷などを理由に会社が人件費を削減する動きに出た結果、リストラや非正規従業員の増加に伴い正規従業員の数が大幅に減少しました。
 ―万で企業業績を維持するために、残された従業員への負担が増大し、「サービス残業」を含む時間外労働が増えました。そのため睡眠不足や生活時間の乱れ、極度の疲労によって心の病が多発するパターンとなっています。

⑷食生活の乱れに伴う栄養バランスの悪化

 意外と重要な原因の一つに「食生活」の乱れがあります。神経細胞の情報伝達にはセロトニンなどの伝達物質が必要ですが、この伝達物質の欠乏や機能不全がうつ病等を引き起こします。砂糖や甘いお菓子、清涼飲料水などの摂り過ぎによる反応性低血糖、ビタミン・ミネラル不足はこの伝達物質を枯渇させ、心の病にかかりやすい状態を容易にもたらします。新鮮な野菜や果物、良質なタンパク源である魚類や海藻類、豆類の消費量減少も、うつ病などの多発の背景となっています。

⑸低体温や代謝低下に伴う神経機能の障害

 食生活の問題とも関連しますが、近年「低体温」の人が増えていることも見逃せません。人間の体温は平均で36.5℃とされていますが、35℃台あるいは34℃台の人が若い世代を中心に増加しています。これは食生活の乱れや運動不足、ストレスなどが原因とされています。36℃以下になると免疫力や代謝が低下してさまざまな病気になりやすくなりますが、心の健康にとっても同様です。低体温に伴い神経細胞の情報伝達がうまくいかなくなり、うつ病などを発症しやすくなるのです。

⑹オフィス環境悪化に伴う慢性的ストレスの増大

 一方で、オフィス環境の悪化も重要な項目の一つです。ホルムアルデヒド等の有害物質などによりシックハウス症候群が起こることは知られていますが、脳細胞にも悪影響を及ぼします。また有害電磁波や地磁気の乱れなども神経細胞への攬乱要因となり、メンタルヘルス不調を誘発します。さらにはコンクリートの打ちっぱなしの建築や無機質なオフィス空間は体や脳を冷やし、そこで暮らす人の感性を鈍くして心のゆとりを奪ってしまうのです。

 次回からは、各局面における対策を検討します。
   (注意)個別案件については、弁護士ないし社会保険労務士など専門家に必ずご相談されることを推奨します。




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